こんばんは。
先日もまた、早稲田大学の日本ワイン講座に行ってきました。
三回目の今日のゲスト講師は長野須坂で昨年ワイナリーを設立したばかり、という「楠ワイナリー」の楠茂幸(しげゆき)さんです。パチパチ。
最近の日本ワインは本当にびっくりするくらいの品質のものに会う事多くなってますが、楠さんのワインもそのひとつ。確か昨夏のことだったと思いますが、新設ワイナリーで名前は聞いていたものの、とある試飲会で初めて楠さんのシャルドネをいただき、こんなに美味しいシャルドネがあるんだ!と。樽の香りがしっかりある、フレッシュフルーティー系ではないブルゴーニュのシャルドネを髣髴とさせる味わいで、楠さんご本人を前に「この人、どこでワイン造りを学んだんだろう?大手ワイナリーから独立したんだっけ?」なんて思って調べたら、脱サラして独力ではじめた、って分かり本当に驚いた記憶があります。そのくらい、大変美味しい洗練されたシャルドネでした。
20年間、航空機のリース会社につとめ世界中飛び回る(ちょっと大げさかも?)仕事をされていた楠さん。その仕事を退職され心機一転、ワインを造ることを目指しオーストラリア、アデレード大学大学院に2年間留学します。ぶどう栽培学とワイン醸造学を学び帰国。日本でのワイナリー設立を目指し奮闘。ぶどう造りに恵まれた環境ということもあり、故郷、北信の須坂にて2004年から畑を借り入れ、2006年に初ヴィンテージ(当時は醸造免許を持っていないため他ワイナリーに醸造は依頼)、2011年に念願の醸造免許を入手し2011年10月から自家醸造をスタートさせました。シャルドネやカベルネ、ピノ・ノワールといった欧州品種を中心に栽培醸造。早くもテレビや新聞で取り上げられ、「長野原産地呼称認定ワイン」にて白ワインが受賞、など、注目を集める勢いのあるワイナリーです。
と、以上がざっくりとしたプロフィール。今回はぶどう栽培についてかなり詳しくお話していただき、その内容も面白く勉強になるもので、もちろん、試飲したワインもすばらしいのですが、なにより、楠さんご本人のここに至るまでの道程が感銘を受けました。
私個人が思うところですが、本来ワインおよびワイナリーについて語るとき、出来上がったワインの味わいが全てで、もちろんワイナリーの背景や姿勢も大切ですが、どんなに素晴らしい信念でワインをつくろうと美味しくなければ意味がないと思うのです。シビアかもしれませんが商売なのだから、結果のワインそのもので勝負が当たり前。特に私たちのように、何万とある中からワインを選び抜き、それを提供してお金を稼ぐ立場だと、自分が飲む以上にシビアな目線で望まなくてはなりません。だから、必要以上に「ワインを造っている人」に感情をもつと、それが鈍るので気をつけなければいけない。冷たいですが必要以上にファンになってはいけないと。
ですが!今回の楠さんのお話は、ちょっと贔屓にしちゃおうかな、と思うくらい、感銘を受けてしまったのです。
個人的な背景を含みお話をします。現在50代半ばの楠さん。「脱サラ」ってのはまま聞く話です。でも、まったく未経験の分野にある程度の年を経てから挑む。しかも、まず国外の大学にて勉強するところからスタート。長野出身っていっても今まで農業とは一切かかわりがない新規就農者。土地を買って苗木を買ってぶどう棚をつくって、醸造設備をつくり、ショップもつくり…。そこには莫大なお金が動きます。ワインは苗木から始めると最低でも3年間はぶどうが採れません。ぶどうが出来てからも新酒でもない限り1年近くは「商品」にならないのです。
ぶどう栽培は農業です。1年中畑の状態を見て周り、特に苗木からスタートさせたら病気との闘い、不必要な雑草との戦い。寒い北信ならではの冷害への対策。どんどん伸びる梢の剪定、葉の剪定、、、もう、それは気が遠くなるくらい大変なことだと思います。私は実際に作業したことはありませんが、都会育ちの軟弱者なので自分には絶対無理だ、と思うほど、本当に肉体労働と細かな気配りが必要なのがぶどう栽培です。
さらに醸造。肉体労働とはまた違う、手をかければかけるだけいいってものでもない、これは経験とセンスがものをいうところ。しかもぶどうは年1回しか実らないので、あれもこれもと試しきれない、これ!って思ったやり方でその1年間の集大成を導いていかなければならない。
もう、なんで安定した職業があるのに、よりにもよって脱サラして日本でワイン造りを…ってついつい思ってしまうくらい、本当に大変なことの連続です。それを、実践して、しかも美味しいワインが出来ている。そのご本人が目の前で淡々と。
私たちも前職をやめ夫婦でワインバーをやっています。もちろん、それなりに大変です。お店を始めるときも「仕事辞めて結婚して式も挙げずに、貯金も全力投入して……」なんて深く考えたら進めない状態(笑)。おかげ様で2年くらい経った今でも「先週に続き今週もヒマ…もう胃がキリキリ…」なんてことはザラです(と思ったら満員御礼で逆にキリキリ、の繰り返し)。でも、一応前職もずっとワイン関係である程度知識もツテもあり、30代なったばかりだし(当時ですよ)、ありがたい両親の存在もあり、、。でもでも一応自分で新しいことに挑戦することの大変さは最低限知っているので、だからこそ、楠さんの決断はすごい!
なんでワイン造りの道に?という質問に対してリアルビジネスへの憧れと、それを選ばなかったことで将来後悔したくなかった、と仰っていた楠さん。
造り手優先で話すのは本意ではないのですが、今回はなんだかとても感銘を受けたので、ワインそのものよりもこちらを優先して書いてしまいました。
楠ワイン、完売しているものが多く実際いつお店でご紹介できるかは未定ですが、必ず、葵でも扱わせていただきたく思っています。
それにしてもこのワイン講座、「山形の老舗」から「山梨の若手代表」そして「長野の新設個人ワイナリー」とバラエティに富んでいて毎回本当に面白い。6月は2週お休みで次回、6月17日は宮崎「都農ワイン」さん。
ブログご覧の方、よろしければまた、お付き合いください。